***箱庭
むかしむかし、
敏江 叔母の家に預けられる前のこと――僕と双子の妹の支那 とじいさんと、3人で暮らしていた時のこと。
保育園に通うことになった年の僕らは、はじめてサンタクロースという人の存在を知った。
テレビはあったけれど、じいさんの好きな大岡越前やのどじまんしか写さなかったから。
絵本なんてものはあるはずなく、本棚に並べられたのは純文学のハードカバーばかり。
もっとも、僕も支那もそれが「当たり前」だと思っていたから、何の不満もなかった。
いや、おやつと言えば、梅こぶ茶と煮干しという定番は少しだけやめて欲しかったけれど。
支那は何のためらいもなく、じいさんに言った。
「いいこのところにはさんたさんがくるんだって。おれとさわちゃんはわるいこなのかな」
じいさんもサンタクロースの存在程度は知っていたらしく、それでも細かいことはよくわからなかったらしい。
次の日の朝――まだクリスマスまでには一月以上あった――、目が覚めると枕元に赤く小さな箱が置いてあった。
支那と僕二人分のプレゼント――都こんぶは、近所にあるスーパーの名前が印字された値札がついたままになっていた。
サンタクロースの存在を知った次の日に、正体を知ることになってしまったけれど。
僕と支那はじいさんにサンタさんが来たよとはしゃいでみせた。
――二度と、僕たちの元にサンタクロースが来ることはなかったけれど。
今はもう、思い出すことも少なくなってしまったけれど。
僕と支那は、そんなサンタクロースが大好きだった。
「闇夜に啼く、あの酉の様に。」より支那と五和のお話そのさん。
とはいえ、前二つとは少しはずれた位置にあるお話だけど。
ところで、この箱庭連作、さりげなーく「闇夜」の方の重大なネタバレを話しているわけですが。ま、いっか。いいのか?
初出:2004.12.18日記 2005.2.20UP